2014年春に初めてRaphaが本州を離れ、熊本県で開催したRapha Prestige Oguni(旧名Gentlemen’s Race)に、訪れたサイクリストたちは息を呑んだはずです。そこは広大かつ未知なる道、人の営みと雄大な自然とが連続するルートがあり、そのハイライトは天空の城を思わせる空へ至る道。誰しもがその日の記憶を胸に、またいつか熊本へ、小国を走ることを心に決めたのでした。 その「いつか」が揺らいだのは、4月14日と16日に発生した熊本地震。テレビニュースが映し出す悲壮な光景と余震の報に言葉を失いました。徐々に現状が明らかになる中で、地元のライダーがオンラインで見せた崩壊した道路の写真。あの日ライダーを歓喜させた天空の道の無残な姿に、心が締め付けられます。
Ride for Kumamoto
Prestigeをホストしてくれた地元の観光産業は壊滅的な被害を免れたものの、震災で書き入れ時のゴールデンウィークは閑古鳥。やむなく営業停止の判断もいくつかの店舗では起こるなか、少しでも現地での支援になればとRaphaでは各地でのチャリティライドツアーを企画。10日間かけて7箇所で8つのチャリティライドを開催するべく、機動性に優れるモバイルサイクルクラブ “ルイゾン” が4月29日に岐阜に向けて発進しました
岐阜に始まったチャリティライドは京都、兵庫県六甲山、兵庫県たつの市、岡山県岡山市、広島県尾道市と続いていく中で、それぞれ地域のサイクリストたちの快い協力へと復興を願う意思を受け取りました。初日の岐阜では午前と午後の2ライドに多くの参加をいただき、新緑と快晴の京都は渓谷の美しいルートを走り、六甲山ではそれぞれが過酷なヒルクライムへと挑み、たつの市では心配された天候も崩れず味方してくれました。岡山では地域のライダーの強い結びつきで最多人数の参加を集め、尾道ではサイクリストフレンドリーな複合施設Onomichi U2の全面的な協力を得てしまなみ海道の表玄関をライド。
どのライドもその地域のライダーを中心に遠方からの参加もあり、晴れやかな表情で寄付金の受付列を作ってくださいました。寄付をいただいたライダーにはルイゾンよりコーヒーをサーブし、終えてみればその杯数はおよそ1200! ライド中、あるいはコーヒーを味わいながらのライド後、参加者たちの会話にはしばしば小国を走った記憶が語られていました。ライダーは熊本を想い、伝え、何かできることはないかと考えているのでした。
そしてルイゾンは九州へ。チャリティライドツアー、最後の目的地は熊本県阿蘇郡小国町。被災地を走るというアイデアを、小国町役役場が全面的に支持を得てルートを精査し、2日間にわたりライドを開催。そのコースは、あのPrestigeで走った天空の道をフィーチャー。小国に集ったのは延べ150名を越えるライダーたち。そこには飛び入りで加わったブリヂストンアンカーの西薗良太選手の姿も。熊本を初めて走る者、2度目の訪問となる者、地元九州の者、参加者はそれぞれでしたが、最後の結論は同じでした。「小国は世界に誇れるサイクリングロケーションだ。またいつか戻ってきたい」
小国でのライドが開催された週末、時を同じくしてニューヨークとメルボルンでもRapha Cycling Club(RCC)のメンバーが主導するRIDE FOR KUMAMOTOが開催されていました。自転車は想いを込めて乗ることのできる乗り物であることを、その想いの横へのつながりの強さを改めて感じます。 ルイゾンが巡った10日間、8つのチャリティライドでは666名の方から総計1,134,881円をお預かりし、熊本県小国町役場へ寄付いたしました。
今回のツアー中で、熊本市内で被災されたライダーからのメッセージをいただきました。そこには避難所暮らしであること、本ライドにも参加したいがそれが叶わない状況であること、そして今回のツアーに対する感謝の念が綴られていました。被災された方々にいつもの暮らしが戻り、道やインフラが補修され、地元のサイクリストが心地よくロードに出られるまで復興は、続きます。支援も続かないといけません。
私たちサイクリストにとってできることは自転車に乗ることです。幸いにも道路の激しい損壊を免れた地域も、その収入の大部分を占める観光業が危機に直面している被災地です。現地に行って、宿泊してサイクリングをし、そのロケーションや感じた体験を周りの人に伝えること。それが自転車乗りとしてできる支援の形のひとつだと考えます。
今回走ったルートは、2014年のRapha Prestigeを念頭に置きつつ、地元役場との連携と確認を経た、問題なく走ることのできるコースです。ぜひライドをしに、訪れてください。