礼儀正しく、あどけない。矯正器具のついた大きな歯を見せながら笑うその顔からは、ダニー・マルティネスが偉大なる選手になる素質の持ち主であることを感じさせない。
EFエデュケーションファーストに所属するその若いコロンビア人は、いつの日かツール・ド・フランスで勝つことを夢見ている。自転車に乗り始めた日から、その夢を見続けている。
「自転車競技が自分の全て。満足感と愛情で満たしてくれるスポーツなんだ。自転車に乗り始めた時から、このスポーツの最高峰まで上り詰めてみせると思った」と彼は言います。
彼が自転車競技に触れる切っ掛けを作ったのは、他でもない熱心なサイクリストの兄のジェイソンでした。地元サッカークラブでのチャンスを逃して不満をためていた弟のためにバイクを見つけ出して、丘に連れて行ったのです。
ガタガタで、錆び付いたおんぼろバイク。大きすぎて、重すぎるその古風なバイクには変速機が付いていなかったため、ダニーはギアを変えたいと思うたびに立ち止まり、後輪の向きを入れ替えなければいけなかったと言います。
変速で止まるたびに兄に置いていかれることに嫌気がさして、ダニーはずっと重いギアを踏み続けることに決めました。多くの若いサイクリストにとって42Tのスプロケットは大きすぎましたが、ダニーは違いました。彼はそのギアに慣れて育ったのです。
「自転車に乗り始めた時から、このスポーツの最高峰まで上り詰めてみせると思った」
それから10年後、身体の成長に合わせて様々なバイクに乗り、22歳になったダニーはその力を遺憾無く発揮し、コロンビア選手権タイムトライアルでエリートカテゴリー初のナショナルタイトルを獲得しました。28kmという短めのコースだったにも関わらず、前年度の優勝者で、同じくコロンビアの至宝であるチームスカイのエガン・ベルナルに1分29秒差を付ける圧勝でした。
両者はツアー・コロンビア 2.1(元オロ・イ・パス)で激突。レースの舞台となるのはコロンビアンサイクリストが得意とする山岳地帯です。「本当に、登りはキツい」とダニーは言います。「毎日のトレーニングで苦しむことには慣れている。でもレースの中では選手の野生が表に出てくる。自分の後ろでライバルが苦しんでいるのを見ると、報われた気持ちになる」。この若者には辛辣さがあります。
ベルナルとマルティネスに、タイムトライアルで2位に入ったミゲルアンヘル・スーパーマン・ロペスを加えた3名は、コロンビアが誇る『ブエルトマノス』つまりオールラウンダーの次世代を担う存在です。圧倒的な登坂力を見せながらもどこか繊細な部分があるピュアクライマーで、母国から遠く離れたヨーロッパの文化に馴染めず苦戦し、タイムトライアルにめっぽう弱い。それがかつてのコロンビア人選手のステレオタイプでしたが、時代は変わりました。
UCIプロコンチネンタルチームに所属し、世界中のレースに出場し始めた時、ダニーはまだ18歳でした。その翌年にダニーはイタリアチームに移籍。そこでジロ・ディタリアへの出場切符を手にします。当時まだ20歳だったダニーは、コロンビア人選手のジロ出場最年少記録を塗り替えました。もちろんただ出場するだけでなく、第7ステージと第14ステージで逃げて見せ場を作ることも忘れませんでした。
その翌年、2017年にダニーはツアー・オブ・ターキーで総合4位に入り、イタリアのミラノ〜トリノで7位に。それらの成績が認められ、2018年にEFエデュケーションファーストとの契約に至り、世界トップカテゴリーの仲間入りを果たしたのです。
「チームに加わる前から、彼はトップ選手になると確信していた。それが第一印象だった」。チームのジョナサン・ヴォーターズCEOはそう説明します。「蓋を開けてみないと分からないものの、自分の印象が正しいものであったと証明できたよ」
チーム加入一年目にも関わらず、ツアー・オブ・カリフォルニアでエースを託されたダニー。彼はそこでベルナルに敗れながらも総合3位という成績を収めています。ベルナルとの間にあるライバル関係は今後も目が離せません。
シーズンの残りは『グレガリオ・デ・ルホ(贅沢なアシスト)』として、ダニーはリゴベルト・ウランに仕えました。「コロンビアではもちろんのこと、世界中で彼から多くのことを学んでいる」とダニー。「彼はそのオープンな性格のおかげでどこでも居場所を見つけることができる。プロトンの中でとても愛されている選手なんだ。チームの中ではリーダーとして冷静沈着。彼のために働くのは本当に楽しい」。
実際に、ダニーはリゴの存在こそがコロンビアの自転車人気に火を付ける要因になっていると考えています。「コロンビア自転車界のパイオニアと言えばナイロ(キンタナ)、リゴ(ウラン)、マウリシオ・ソレル、マウリシオ・アルディラ。コロンビアに行けば分かるけど、今は本当に多くの若いライダーたちが強くなりたい、プロになりたいとトレーニングに励んでいる。ヨーロッパで成功を収めた先輩たちの存在が母国の若者を鼓舞している。自分もそのうちの一人だった」
「本当に素晴らしい。ツール・ド・フランスのようだ。コロンビアで。2月に」。
ウランのシーズンインが足の怪我の影響で遅れていたため、ツアー・コロンビア 2.1におけるウランとマルティネスの役割は逆転しました。リゴがダニーを支えることになったのです:「ダニーと一緒に走るのは特別な気持ちだ」とウランは話します。「彼は才能に溢れている。それでいて、常に色んなものを吸収したいと励んでいる。昨年、ツールをはじめとする色んなレースで、彼と一緒に走る機会に恵まれた。彼はいつでも素晴らしい走りをした」。
ダニーを突き動かすのは、リゴに尽くしたいと願う気持ちだけでなく、コロンビアらしい熱狂的なファンのサポートです。ツアー・コロンビアは昨年初開催。コース沿道には何重もの観客、場所によっては10列にもなる観客が詰めかけ、声援がこだましました。『ナイロ!ナイロ!』 『リゴ!リゴ!』 耳を塞いでしまうほどの大声援でした。「本当に素晴らしかった」とダニーは振り返ります。「コロンビアで、2月に、ツール・ド・フランスが開催されているようだった」
今年はまた一味違います。ダニーへの声援も増すことでしょう。ギア変速のために後輪を入れ替えていたことが遥か昔のことのようです。
#GoneRacing
EFゴーンレーシングの次のエピソードは、ツアー・コロンビア2.1を特集します。これまでのシリーズを振り返りながら、以下からチャンネル登録をお願いします。