北半球でも特に暗い冬の終りが見え始める頃。気温の上昇と共に、地球上の生き物もおなじみの生息地へと戻って行きます。暖かくなれば活動的になる昔ながらのこの伝統は人間にとっても通過儀礼であり、数限りないアメリカ大陸のマウンテンバイカーもまた同様に、凍ったトレイルから逃れて暖かい南西方面へ大移動するのです。
この地の温暖な天候では、年間を通して安定したライドが可能で、シュールな砂漠の作り出すランドスケープと数限りないアイコニックなシングルトラックがひたすら繋がっています。この高地砂漠が有する時の流れが作り出した広大な造形には、自然への畏敬の念を抱かずにはいられません。その中でも、アリゾナ州セドナは目的地の中でも特に人を惹きつけ、かつ著名な場所なのです。
ココニーノ国立森林公園内部に位置するセドナは、巨大な砂岩と石灰岩で構成されており、ピニオンパイン、ジュニパー、オコティロ、ユッカが群生する古ぼけた丘の上にぼやっと存在しています。赤錆色のランドスケープは、あらゆるタイプの探求者にとっての神秘的な目的地になっています。新しい時代のツーリズムとして、UFOを信じる者から各種の結晶を体に当てるクリスタルセラピーの施術者、超能力を持つヨガ行者まで、様々な探求者の集まる街として成長しています。私達は陸上での快楽と挑戦を求めていますが、ある意味ではセドナを旅する者は自身の道を探し求める探求者であるのです。
ハイライン、ブリュワー、スリム シャディー、ホグスといったトレイルでは様々な景色を見ることができ、クロスカントリー好きから、高難易度のダブルブラックダイヤモンドをキメるライダーまでが集まります。多用途という言葉は、走るライダーと機材を考える上で重要な言葉です。準備をしていない者に対し、砂漠は簡単に牙を剥きます。
雪を逃れてこの場所へ来たものの、宿泊先のフラッグスタッフは冬真っ盛りでした。天気予報とは常に予測不能であり、吹雪は私達のセドナ到着前にあたり一面を冬景色に変えました。ですが、天候不順が私達の走りたい欲求を止めることはできません。
隣接する谷の間を暗雲と不吉な影が覆う中、幸運にも爽やかな朝を迎えて午後には気温も上昇。ダートを切り裂いて進むタイヤのノブは、ヴェルデ渓谷に沈む夕日に照らされて信じられないほど真紅に染まっていました。真の陶酔とは苦難の後に訪れる。今回の場合は数ヶ月にも渡る辛い、凍えるような雨と雪。しかし、最後には探していたものを見つけました。
ある映画の中にこんな台詞がある。「あなたがどこに行こうとも、そこに必ずあなたがいる」。この冬セドナを走ることができなくても、自分のローカルトレイルを満喫しましょう。砂漠はいつでもあなたを待っています。終わらない冬はなく、最高のシーズンはまだこれからです。