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Part1 - 鍋谷峠

鍋谷峠の麓に着くと「通行止め」の看板に出くわした。突然の出来事に思わず不満の声が漏れる。でもよく見ると、工事による通行止め区間は峠の反対側で、しかも時間指定有り。急いで上れば何とか問題の箇所をクリア出来そうだ。
すると、赤いライトセーバーを右手に持ったガードマンが、明らかに会話を求めているような笑みを浮かべて寄ってきた。どこから来てどこに行くのか。そんな説明に、おじさんは年季の入った顔に白い歯を浮かばせて聴き入る。その計画に目を細めて首を横に振りながらも、最後は握手して暖かく送り出してくれた。
しばらくしてケイデンスが思わず下がる。今日最初の峠が始まった。

杉林を縫うようにして、徐々に高度を上げた。自分たちの後ろに広がるのは大阪平野。不規則に広がる広大な都市部の中に、自転車乗りにはお馴染みの会社がある。インデックスシフトやデュアルコントロールレバーも、元はと言えばこの会社の発明品だ。昔からこの鍋谷峠はシマノ製品の格好のテスト場所だった。それは、マドン峠とランスの関係と似ている。長年、鍋谷峠は定番トレーニングコースとしてシマノレーシングチームの脚を鍛えてきた。
ライダーたちはみんなそれぞれのギアを選んでケイデンスを保っている。メンバーの中で最も若い小俣は、やけにケイデンスが速い。厳しい冬を抜けたばかりなのに、軽やかに杉林の先を目指している。逆に矢野のペースは落ちる一方。ズルズルと後退して、やがてそのピンクのジャケットは樹々の間に消えて行った。



白い息に包まれて鍋谷峠の頂上に着いた。ここからは大阪府に別れを告げて、和歌山県に突入する。この葛城山系は南斜面の視界が開けている。沿道に広がるのはみかん畑。冬場の団らんにみかんは欠かせないのは知っている。暖かいこたつに脚を突っ込んで、かごに盛られたみかんに手を伸ばす定番の光景。


でも今は樹々に果実は残っていない。コーナー毎に備え付けられている凸面のミラーに目を配りながら、峠を転げ落ちるように駆け下る。対向車やコーナーの先の様子を知る術として、日本中に何万個も突き刺されたミラーの存在はありがたい。タイトコーナーが連続するのでスピードは出せないが、それだけコーナリングの練習になる。
通行止め箇所にが近づくと、もう一人のガードマンがライトセーバーを振ってスピードダウンを促していた。何とか時間内に通行止め区間をクリア。スケジュール通りにライドを続行することになった。


少し立ち寄った高野山口駅は、その名の通り、高野山への入り口だ。40~50年前に建てられた古い建物を横目に進む。少子化と高齢化で、まるで時間が止まったような印象の街。はぐれたライダーを待つためにおもちゃ屋の前で立ち止まると、そこにはガチャガチャマシーンが置いてあった。コインを入れてレバーをガチャガチャと回すと、おもちゃの入ったカプセルが落ちてくる。そのシステムは今も昔も変わらない。でも子どもの姿は見当たらない...


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