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バスケットは空です

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Part3 - 海岸寺

ようやく折り返し地点にたどり着いた気分で、再スタートを切る。リラックスしている様な気もするが、キューシートを確認するとまだ大きな登りが2つ残されている。そろそろ各ライダーの脚が試される距離と走行時間だ。渡辺は登るたびに遅れが目立ち始め、内池も徐々に離れ始める。前半のツケがまわってきたのだろう。普段から一番トレーニングに熱心なイメージがあるだけに以外な展開だ。そして最も乗れてないイメージがあった小俣の脚は、疲労どころか更に軽やかに回り出す。韮崎の北端となるホッチ峠までは、矢野と小俣の意地の張り合いとなる。ダンシングしてもなかなか赤いジャケットの雄風太に追いつかない。夕日で更に赤く染まったジャケットは離れもしない。視覚的に覚えているのは、ゴルフ場を通ったのと、一瞬だけ富士山が見えたこと。あ、後は小俣を振り切って峠を取ったこと。

ホッチ峠を降りてきたと言っても、標高はまだ1000mを超える。韮崎へ向かって直滑降し、明野を跨いで最後の登りにかかる頃には、辺り一面が薄暗闇に包まれていた。南アルプスの尾根が青くぼんやりと輝いている。自称日照時間日本一を誇る明野でも、さすがに暗い。日本離れした明野の壮大な風景を体いっぱいに吸収し、精神を落ち着かせてから最大の標高差を登るという本来の予定はあっさりと打ち消される。同じ場所を日中にいつの日か訪れたら、その景色は初めて目にする感覚になるのだろう。

国道141号線に並行する裏道として、スマートなカーナビと地元のドライバーだけが選ぶ道がある。きつい道だ。遠くから上りの先を見上げると、建物なのかと目を疑う勢いで、垂直の上り道が森の中へと消えて行く。視界が開けた場所ではまだ辺りが見えるが、徐々に色素が薄れ、モノクロの世界へと変わって行く。渡されたアンパンの切れ端をむさぼりながら「点」に向かってゆっくりと登り始める。斜度が一気に上がったら、海岸寺のサインが見える。野辺山の周りにも小海、海尻などあり、ここも海岸寺。海が無い長野と山梨県の願望が、地名に表れているのだろうか?何が海岸でお寺なのか...噂によると、茂みに埋もれた旧参道は、数百段におよぶアプローチだとか。
そんな海岸寺を越えると森に入り、スイッチバックが連続する。すでにモノクロの世界ではなく、真っ暗である。「鳥目だから見えない」と内池は吐くが、どの正常な人間だって何も見えない。おそらくまだ余裕で1時間はある...渡辺はひどく遅れ出し、確認だけは取っておこうとスイッチバックの上から名前を叫び、エコーを待つ。

かすかに浮かぶ月明かりと、長い影を作る車のライトを頼りに、路面を確認しながらペダルを踏む。山間のわずかな平地に集まる古い集落、一面に広がるすすき野原に、平沢から見下ろす富士山や八ヶ岳...暗くても説明してあげたいが、もうどうでもいい。まだ元気に走る小俣と二人でなんとなく先頭交代しながら、一言も口を聞かずに平沢峠の駐車場までたどり着く。火照ったカラダから湯気が立ち、寒さを全く感じない。しばらくするとブツブツいいながら内池が到着し、我慢で登ってきた渡辺が相当遅れて合流する。ここからの八ヶ岳が...もういいか。

残りわずかで気持ちだけが先行するが、最後の数キロは4人でパックを組む。全員の頭の中に「毎回これか?」という疑問がありながらも、誰も口にはしない。とにかく今は終わった事に喜びを感じることにする。地形、景色と言った固定要素とは別に、悪天候、悪路、機材トラブルなどはエピック・ライドの要素として考えていたが、いきなり暗闇になるとは想定できていなかった。

PART4 - スライドショー&ショートムービー