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バスケットは空です

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Gentlemen's Race – Koshin

Rapha Gentleman's Raceはレースでありながらレースではありません。求められるのはライダーとしてのタフさであり、仲間を思いやれる紳士の精神です。クラブライドでもなく、グランフォンドでもなく、ましてやロードレースでもないこのレースにおいて、サドルの上で味わう苦痛と歓喜は、プロレーサーのそれに決して劣らないことを、ライダーはみな感じることができるのです。

Photos: Masashi Ichifuru (rider) | Film: Ryota Kenmochi | Words: Takashi Sawa

「そらいけ、やい、とんちき!」だんだんと彼は仕事に興味をおぼえはじめ、彼の脚は私たちの脚についてきて、足首運動をふたたび始めるようになり、ついには狂ったように目まぐるしくペダルを踏むようにさえなった。
「飛ぶようだ」と伍長が言った、「やつは調子が出ているな。そのうち気が狂いだすかもしらんぞ。」
じつのところ、彼はただ調子が出てるというだけではなくて、無我夢中になっていた。死んだジェイコブスのスプリントは、生きている者にはとても考えられないようなスプリントであった。

『超男性』アルフレッド・ジャリ 1902年 澁澤龍彦訳

この日にターゲットを合わせたトップシェイプの身体、最新の機材、ライバルが引っ張ってくれる本番効果の高み。レースの風景は美しい。

けれども、最高のビューや天気をもっと長く体験して特別な一日を存分に楽しみたい、と日頃思っていたら、Raphaの主催するKoshin Gentlemens's Race 2012なるものに誘っていただいた。コースは140km 獲得標高4000m! その中には10kmのダートもある。参加者と主催者のニヤニヤ顔が思い浮かぶ。

そしてこれは5人1組のチーム走で、全員がゴールせねばタイムとしてカウントされない。一人が速くても駄目で走力と想像力が問われる訳だ。後ろをバンバン切り離す往年のGBMGビアンキチームのTTT走法ではいけない。

個人的には、この5人1組の形態が上記の「超男性」を思い出させた。その中では5人のタンデム車が機関車と1万マイル競走をする。両方とも一人の男に完敗するのだけれど…。 百年以上前に書かれた小説のサブタイトルは”現代小説”である。スポーツとマシーンとセックスの恍惚を同次元で描いた物語はシュルレアリストを驚喜させたのだが、今こそ読まれるべきだと思う。


空気のクリアな野辺山の会場には15チームが集合。いつもの仲間の他にも、各地のバイクショップ、自転車メディアの有名人、SNSのアイコンでしかみたことなかった彼、stravaのライバル、パーティーで互いにベロベロだったアイツ… 皆がそこにいる。そして、皆がいつもと違うチャンネルを開いている。

能動的で自発的な事柄は人と人をつなげる。ライドの最中は割と無言になることが多いものだが、それは日常のばか騒ぎより雄弁で心地よい。先の道の状況はわからず、天候も補給のペースも不明。その「ギリギリ実力のすこし上」のさじ加減を皆が堪能している。チームメイトを気にしつつ、チームメイトが集中できるように自分のペースを貫く。

メインディッシュは大弛峠。ここは自転車乗りの間では有名で、僕も数回登って苦労した事がある。が、今回はその逆側。おそろしい事に完全ダートである。オンロードのヒルクライムやダウンヒルでは15〜20m先が「未来」だが、この道は50cm先の石や岩、カーブや轍に対応する必要がある。それも時として10%を超える斜度で… なんというエンタテインメント!黎明期のツール・ド・フランスじゃないか。

この峠、皆の感想はだいたい一致していた。前半は主催者への感謝、後半は呪詛である。それほどに強烈な体験だった。今でも時々「あのカーブはイン側でむりやり行ったら足着かなかったかも」などと夢想させる。山は雄大な自然でも、そこに敷かれた道路は人工物である。そして大抵、印象的な建築物より寿命は長く、道路はその表情を長年変える事はない。山道を登った感覚はいつまでも再生可能なのだ。その気になれば!

峠にギザッロ教会がない変わりに素敵な山小屋があり、神秘体験に匹敵するカレーと暖を得られた。「これ、レースだったっけ?」という具合に長居して語りあう。個人競争ではない為か、他チームの頑張りも非常に嬉しい。このレースのうま味を掴んだ気がした。

つい先日、ダンサーの池田扶美代がソロ公演のアフタートークでこう語っていた。自分のダンスは完成に向かっているのではない。ダンスを完成させるのではなく、その場で「掴む」事が自分には大事だと。それは一年に数回しか訪れない。自分の体調と、カンパニーと、オーディエンスと、ホールとの一体感。この感覚を「掴む」と語っていた。

ライドで翻訳するとそれは、自分の脚と、機材と、当日メンバーと、ルートだろうか。Koshin Gentlemens's Race 2012の参加者、スタッフ、ボランティアの面々の一人も欠けると成立しない感覚。後半の断続的な雨とワイルドな山道、献身的なエイドにBBQでの歓喜、翌日の即座な撤収。思い起こす度に9月1日で感じた感覚の輪郭が定まっていく気がした。

さぁ、今週末はどこ行こうか。