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Part1 - クリスタルライン

11月最後の週末。標高1400mに位置する野辺山の木々はすでに葉を落としており、森の中の隅々まで陽が入る。夏と比べて冬の方が日照時間は断然長い。すでに動物たちは秋に集めた実を巣穴に貯蓄し、人間は薪を外壁いっぱいに積み重ねている。自分たちだけが、これから始まる想像を絶する厳しい冬への準備がすでに出遅れていることを確認する。それと同時に、初回のRapha四列島ライドの想像で頭の中はいっぱいだ。ライドの結末がどう描かれて行くのか全くイメージが作れないことで、先に寝床に入ったはずが寝れていないライダーがいる。

記念すべきファーストライドの前夜、夜中の2時...集まったライダーは、自分のバイクの完成をまだ待つヴィンセント残して、2階の寝室に上がっていく。この日、すでに2台を組み上げ、これが3台目。ポジション出しはぶっつけ本番で、細かいところは各自調整してもらうことに。だいたい基本寸法だけ出しておけば、ガンホーなライダーは気にせず乗ってしまうものだろう。「ミリ単位で語るのは自信の無さの表れ」とでも堂々と言っておけば、細かい事は言わないだろう。


7頃になって、ようやくボーッとした顔で次々とライダーがダイニングに集まる。この瞬間、何のためにここに来ているのか全く理解できていない。今から卸したての自転車に跨がなければいけないという事なんてなおさらだ。ま、乗り出せば、あーではない、こーではないと、うんちくの言い訳をするかもしれないが。
ようやくバイクを取り出すころ、まだ霧が牧草地を覆っていた。収穫はとっくに終っているが、巨大なトレーラーを引いたトラクターが何度も目の前を往復する。来年に備え、広大な畑に肥料を撒く為の作業。裏のパイロットファーム農家の今年最後の仕事だそうだ。「さー、行きますか」などの声もかからぬまま、矢野とヴィンセントが勝手に乗り出して行く。勝手に行ってしまう奴も面倒だが、指示が出るまで全く動かない方が付合いにくい。


澄んだ空気の先に浅間山を望みながら、50km/h近くで緩やかに下る。各自中途半端に離れているのは、スピードから来ているのではなく、慣れないグループで互いの許容範囲が良く分かっていないから。まだこのライドがどういう展開を見せるのか、いまいち理解できていないライダーがいるので仕方がない。いちいち説明するのも面倒なので、取りあえずこぎ出せば、フィーリングで分かってもらえるだろう。ペースがロケペースでないことはスタート後しばらくして分かった。

コースは細かな峠の連続でアップダウンの繰り返し。最初のまとまった登りは、川上村から山梨県へ抜ける信州峠。この堂々たる名前の峠がどうして県境にあるのか?信州を代表する規模の峠でもないが、垂直に登る道を見上げると、どうも気が引けて来る。道路脇には荷台に檻を積んだ軽トラックが並び、何かと山の中に気配を感じる。フォトグラファーのブライアンが山の中へと走って行くと、散弾銃を抱えている綺麗な女性が一人佇んでいた。自分と同じくらい大きな銃を、重たさを感じさせずに持つ姿が、何ともおしゃれである。地元の農家で、致命的な農作ダメージを与える鹿の駆除を、腰の重たい行政に頼らず、自ら処理する為に猟犬を育ててハンターとなった人達だ。ブライアンが遭遇したのは、ちょうど犬4匹が鹿を見つけて追い込んでいる時だった。ちょっとした災害で陸の孤島になりそうな川上村は、一般的な日本の田舎の村とは違う。早くからJAを離脱した農家は、高級野菜の独自の販売ルートを開拓し、海外輸出も行なっている。一時は村民の平均収入が2000万円を超えた。ニホンオオカミの血が流れているとされる秘境の猟犬「川上犬」を大事に育てる川上村。日本のヨセミテと呼ばれる小川山には、各地からロック・クライマーが集まる。

信州峠を越えると山梨県に入る。スムーズなコーナーが連続するすばらしいダウンヒルをこなし、勇壮な瑞牆山へと登って行く。ここから数時間は山奥となり、迷う道もなく、各自がペース配分を考慮するためグループは自然とばらける。小俣と内池が調子良さそうにリードしていき、すぐに残り3名の視界から消えて行く。特に辛いわけではないが、先が心配で、どうしても気持ちがコンサバティブになってしまう。今辛かったら先が思いやられる。

広くスムーズな舗装の登りとは対照的に、瑞牆荘があるピークを越えると、狭くてラフな下りが始まる。増富ラジウム鉱泉までは殆どがアスファルトではなくコンクリート舗装。ブランドコーナーだらけの林道を、ジェットコースターの様に転げ落ちる。登りで肉体的ストレスを感じたばかりだが、神経を使う下りでは更にストレスが蓄積する。山梨北部の唐松の林を、68kmかけて横断するクリスタルライン。そのの西側のみを使い、荒川ダムに向かって渓谷沿いをまとまって走る。山梨県内のみで完結させようとしたおかげか、クリスタルラインは清里の下の国道141号線で歯切れが悪いまま終わる。いつか甲府盆地一周のライドで、林道の全域を使いたいところだ。

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「目を閉じた瞬間に目覚ましが鳴った。他がすでに起きているか気配を確認してから二度寝に入る。ホストだろうが、3時間しか寝てなくて最初に起きるには気が引ける。犬だってまだいびきかいている。気持ちが高ぶり、調子がいいときは足にむずむずするセンセーションが走る。今朝は全く無かった。」 - 矢野大介

「先週からずっと咳が止まらない。サドルの上での長い一日が始まろうとしているというのに気管支炎だろうか。まともに呼吸ができないし、ほうんとうに最後まで走りきることができるのだろうか?ま、やってみるしかないか...」 - ヴィンセント・フラナガン


「ライド全体の空気感、ボリューム感がつかめないままのスタート。ロケ撮影なのか、ファンライドなのか、ツーリングなのか?ちゃんとした説明があって、自分だけが理解できていないのか?」 - 内池裕治

